2020/1/14

 

このコラムでは、昨今の映像翻訳について当社代表の池田が日々疑問に感じている内容を思いつくままに書いていきます。

第1回目の今日は「外画の1人負け」です。

 

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 このところ外画(外国映画・ドラマ)を観る人が減ってきているらしい。レンタル・セル市場の各種数字は軒並み前年割れで、全般的に以前の活気はどこへやらという感じなのだが、そんな中でも邦画はほぼ横ばいで、アニメに至っては飛ぶ鳥を落とす勢いで数字を伸ばしている。邦画、アニメが頑張っているのになぜ全体として減少しているのか。つまり外画が1人負け状態となって全体の数字を下に引っ張っているのである。これはもっぱら外画を商売のネタとしている当社にとっては実に由々しき事態である。

 

 ではなぜ以前と比べて外画から足が遠のいているのか。理由のひとつには、最近の言葉でいう、日本人の「マイルドヤンキー」化も挙げられると思う。地元志向が強く、「仲間」「家族」という言葉を好む(他にも様々な定義あり)というこの種の人たちにとっては、仲間でも家族でもなく、地元から遠く離れた異国の地に暮らす人々の話など何の興味も関心ない。まことにもって残念な傾向だが、これはまぎれもない事実である(何を隠そう僕の娘もそうだ)。

 

 しかし外画の人気が低下しているのはそれだけが理由ではないように思える。むしろもっと直接的に外画を“見たくない”気にさせるものがある。それは字幕だ。

 

 近頃の字幕はとにかく情報量が多すぎる。古き良き時代の字幕は直訳を廃し、表現の角度を変え、言葉と文章に趣向を凝らし、セリフが重なる部分はアウトを多用、限られた表示タイムの中でいかに文字数を減らし、結果として字幕を読みやすくできるかに心血を注いでいたし、またそれがプロフェッショナルとして最大の腕の見せ所だった。ところが今では逆に、いかに原文の持つ情報をそのままきちんと盛り込んでいるかだけが重視され、読みやすさなどに配慮している字幕は皆無と言っていいくらいだ。セリフをアウトにしているケースなど、とんとお目にかかれなくなった。

 

 いきおい字幕は長々しく、余計な言葉が多くなり読みづらくなる。たとえば"Put it on the blue table"というセリフがあり、画面には青いテーブルが映っていて、話者がその方向を指さしていようとも、"その青いテーブルに置け"と書いてしまう。このくらいのセリフだと尺はおそらく1秒ほどだ。長くても5文字くらいに収める必要がある。この場合は"そこに置け"で十分だ。"青"と"テーブル"という情報は映像に映っているので字幕にする必要はない。

 

 こうした文字数の多い字幕をずっと読まされていると、しだいに目にも心にも疲労を感じるようになる。折角リラックスしたいと思っているのに、わざわざ疲れるようなことなんかしたくない、だったら邦画かアニメにしよう、となるのは極めて自然な流れだ。

 

 どうして字幕が読みにくくなり、外画という素晴らしい商品が"とっつきにくい"ものになってしまったのか、その理由は次のコラムで改めて書くことにしたい。このまま外画業界全体がシュリンクしたままで終わってしまうことのないよう、誰かが何かを提言しなければならないと考え、僕は手始めにこのコラムを綴ることにした。

 

第1回おわり

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