★★★「ブレス無視」の例 【#9—3802】
<原音シンクロ>
a) いっそこの手を/この手首を切り落として しまったほうがいいかしら アア
<ブレス無視>
b) いっそこの手を/この手首を切り落としてしまったほうがいいかもしれない アア
原音の「切り落として」と「しまったほうが」の間にしっかりとブレスが入るため、原音シンクロの場合、ここを意識して空けてしまうと、訳文は得てしてa)のようになりがちで、文の途中に不自然な切れ目が入ることになり、なおかつそのあとの尺が足りないために文末も表現を変えざるをえないなど、無理やり感が増してぎこちないセリフになってしまいがちです。
それを回避するため、ここはあえて途中のブレスを無視して一気に続くセリフにしてみると、自然になるだけでなく尺も伸びるため、表現にも余裕が出ます。セリフの最後だけを合わせておけば、途中はどうであってもほとんど気にならないことが分かります。
程度にもよりますが、口元がよほど大きく映っていたり、ブレスがさらにしっかりととられている場所でない限り、積極的に使用していける方法と思います。
★「ブレス詰め」の例 【#7-5420】
<原音シンクロ>
a) 《 》ところで 昨日、代表に 失礼なことはしてませ(んよね)
<ブレス詰め>
b) 《 》ところで 昨日、代表に、失礼なことはしてませんよね
原音の「代表に」と「失礼な」の間にしっかりしたブレスが入るため、ここで原音にシンクロさせると後半の尺が短くなり、入れたいセリフが最後まで入りませんが、ブレスをほんの軽いものにして半分詰めるような形にすると、最後まで余裕でセリフが入ることになります。
★★「長め」の例 【#42-0524】
<原音シンクロ>
a) 申し訳ないが/僕は君の言うようなヒモ男じゃ(ない)
<長めに>
b) 申し訳ないが/僕は君の言うようなヒモ男じゃない
原音にシンクロさせるとセリフが最後まで入りきらない感じですが、よく見ると言い終わった後にも口が閉じておらず、わずかに唇も動いていますので、そこを利用してセリフを全部入れ込みました。考えたセリフが長めで入らないと思っても、言い終わりで口が閉じていない限りはこの方法でクリアできることが多いので、積極的に使用してください。
★★「長め」の例2 【#7-0120】
<原音シンクロ>
a) 元はといえば先輩のせ(いなのに)
<長めに>
b) 元はといえば先輩のせいなのに(※口が開いているのを利用)
原音シンクロだとかなり尺が短く、別のセリフを考えねばならないところですが、そのあとの口の開きを利用して強引に入れ込みました。これはかなり極端な例ですが、ここまでやっても最終的にさほど違和感なく収まることが分かります。
★★「こぼし」の例 【#7-3306】
<原音シンクロ>
a) てことは 一億ウォンなら2(倍?)
<こぼし>
b) てことは 一億ウォンなら2倍?
原音はカットが変わる前に音声が消えるため、それに合わせようとすると今度は尺が足りずセリフに無理がかかりますので、日本語音声はカットをこぼして余裕を持たせました。カットのあとは大抵別の人物にフォーカスが移りますので、話者は画面に入らないか、入っていても画面の中心からは外れていることがほとんどですので、話者の口と声が合っていなくても気づかれることはまずありません。
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一般的に吹替台本のセリフは「短いよりは長めのほうがいい」と考えていただいて構いません。現場で修正するにしてもセリフのどこかを削る方が、新たに付け加えるよりは簡単ということもありますし、役者さんに少し早口で呼んでもらうというやり方もあります。また多くの場合で上記のような”言い終わりで口が閉じていないのを利用して入れ込む”という方法も使えます。さらには”口が動いていないが音声がある”のと”口が動いているのに音声がない”状態を比べた場合、後者のほうが格段に違和感があります。
台本を書く際には書いたセリフを声に出して実際に読んで確認してみると思いますが、その際、スタートが0コンマ何秒か遅れる分、ほんの少し原音より最後をはみ出させるような感じで書いた方が、その後のプロセスがスムーズになると言えるでしょう。